先に、要点をまとめます。
- VercelとAWSは対立する二者択一ではありません。 Vercelの公式ドキュメントでは、VercelのCDNとデプロイ基盤は主にAWSを利用していると説明されています(2026年9月23日時点)。本当の問いは「AWSの上を自分たちで組むか、Vercelに任せるか」という運用責任の線引きです。
- 費用を比べるときは、月額プランの額面ではなく、同じ処理量・地域・構成・運用体制で揃えます。Vercelは課金項目が細かく分かれており、月額料金は支出の上限ではありません。
- コスト以前に要件で決まる場合があります。 専用の隔離環境や固定送信元IPが必要なら、Vercelでは対応するプラン・アドオンが前提になります。まず要件の棚卸しから始めてください。
この記事は2026年9月23日時点の公式情報をもとに整理しています。単価は変わるため、判断の直前には各社の公式ページで再計算してください。
Vercelとは何をするサービスか?
Next.jsなどのWebアプリを公開・実行・配信する、マネージド型のホスティングプラットフォームです。
コードをGitへpushすると、Vercelがビルドしてプレビュー用のURLを自動生成し、本番公開とアクセス増加に応じた拡張まで引き受けます。SSL証明書の更新、CDNでの配信、切り戻しといった作業も、設定をほとんど書かずに動きます。Next.jsを開発しているのがVercel社であるため、Next.jsの新機能への追従が速いのも実務上の特徴です。
そのうえで押さえておきたいのが基盤の話です。Vercelのセキュリティ・コンプライアンス文書では、VercelのCDNとデプロイ基盤は主にAWSを利用し、19のリージョンとAnycastネットワークを持つと説明されています。つまりVercelは、AWSを運用代行込みで包んだ層という関係です。
この前提を持っておくと、以降の判断がぶれません。「Vercel対AWS」は勝ち負けの比較ではなく、AWSの上を自分たちで組むか、Vercelに任せるかという線引きの問題として読み替えられます。
VercelとAWSの比較で、最初に何を揃えるべきか?
比較対象を特定することが先です。AWS全体とVercelの1プランを比べても条件が揃いません。
既存システムを移行したいについて相談する老朽化した業務システム、限界がきたSaaS、連絡の取れない開発会社が作ったシステムを、業務を止めずに引き取って作り変える受託開発既存システムを移行したいを見る →AWSは複数サービスの組み合わせです。Web配信、API、データベース、画像、バッチをそれぞれどこで実行するかを書き出さないと、比較表が作れません。AWS料金計算ツールでは、選んだサービスと条件を記録として残せます。
揃える前提を先に決めてください。
| 項目 | 両案で揃える前提 |
|---|---|
| リクエスト | 月間件数、ピーク時の同時数、再試行の回数 |
| 処理 | CPU時間、I/O待機、割当メモリ、長時間処理の有無 |
| データ | DB・添付の容量、読み書き回数、バックアップ世代 |
| 転送 | 配信先の地域、画像、外部APIとの通信量 |
| 運用 | 監視、更新、障害対応、権限管理にかかる社内時間 |
| 移行 | コード変更、設定、試験、切替、教育の工数 |
最後の2行が抜けた比較表は、ほぼ必ずAWS側を安く見せます。マネージドサービスが肩代わりしていた運用を誰が引き受けるのかを、時間として書き込んでください。
Vercelの課金はどの項目に分かれているか?
月額プラン料金と従量課金は別物で、月額は支出の上限ではありません。
2026年9月23日時点のVercel Proプランでは、月20米ドルのプラットフォーム料金に、デプロイ可能なチームシート1枠と月20米ドル分の利用クレジットが含まれます。このクレジットを使い切ると、以降は従量課金へ切り替わります。クレジットは月末に失効し、翌月リセットされます。
従量課金の項目はVercelの料金ドキュメントで確認できます。CDN側ではFast Data Transfer、Fast Origin Transfer、Edge Requests、関数側ではActive CPU、Provisioned Memory、Invocationsといった具合に、課金の単位が細かく分かれています。リージョン別の料金では、Fast Data Transferが1GBあたり0.15〜0.35米ドル、Edge Requestsが100万件あたり2.00〜3.20米ドルという幅で案内されています(いずれも税別・米ドル)。
「I/O待機中はCPU課金なし」を全費用ゼロと読み替えない
Fluid computeの料金説明では、Active CPUはコードが実際に動いている時間だけ課金され、データベース照会やAIモデル呼び出しなどのI/O待機中は課金が止まると説明されています。一方でProvisioned Memory(割り当てメモリ)は、I/O待機中も課金が続きます。公式には、インスタンスの生存期間全体に対してGB時間で課金され、最後の処理中のリクエストが完了するまで課金が続くと明記されています。呼び出し回数も別項目です。
同ページのTokyo(hnd1)リージョンの単価は、Active CPUが1時間あたり0.202米ドル、Provisioned Memoryが1GB時間あたり0.0167米ドルです。AI APIの応答待ちが長いサービスでは、CPUだけを見ると安く見える一方、待機中もメモリが課金され続けるため、応答時間の分布と同時実行数を記録して、通常時とピーク時を分けて試算してください。再試行が増えるとAI API側の費用も動きます。
支出の管理も確認事項です。同じ公式ドキュメントでは、新規のお客様に対して既定で1請求サイクルあたり200米ドルの支出管理通知が有効化されると案内されています。従量課金は放置すると想定を超えるため、契約直後に閾値を確認してください。
コストより先に決まる要件はあるか?
あります。専用の隔離環境・固定送信元IP・閉域接続が必須なら、金額の比較より前に結論が出ます。
Vercelのコンプライアンス文書によると、2026年9月23日時点でVercelはSOC 2 Type 2の認証(Security・Confidentiality・Availability)、ISO 27001:2022、PCI DSS対応、GDPR対応、EU-U.S. Data Privacy Framework認証、TISAX AL2を備えています。関数の既定のリージョンは米国ですが、お客様側で配置するリージョンを選択できます。
境界線はネットワーク要件の側にあります。同文書では、プライベートで隔離されたクラウド環境と専用の送信元IPアドレスを提供するVercel Secure ComputeはEnterpriseプランで利用可能と説明されています。VPCピアリングとVPNサポートもこのSecure Computeの上に構築されるものです。加えて料金ドキュメントでは、Static IPs(固定送信元IP)がProプランの有料アドオンとして1プロジェクトあたり月100米ドル(別途Private Data Transfer)と案内されています。
| 状況 | 先に確認すること | 判断例 |
|---|---|---|
| 社内DBへIP制限付きで接続する | 固定送信元IPが必須か | アドオンまたはEnterprise、あるいはAWS側を比較 |
| VPC内に閉じる・閉域接続が必須 | 契約・調達要件の条文 | 要件を満たす構成をコスト比較より先に特定 |
| 保存リージョンを固定したい | 対象データの範囲と根拠 | 選択可能なリージョンで足りるかを確認 |
| 特に要件がない | 現状の請求内訳を可視化したか | まず今の構成で改善できる点を先に潰す |
自社の要件がどちらの土俵かという問いに置き換えると、判断が早くなります。要件で決まるケースでは、金額の比較に入る前に、満たすべき条件の棚卸しへ戻ってください。
移行する前に、今の構成で改善できることは?
まず請求の内訳を見て、どの項目が効いているかを特定します。移行はその後です。
Vercelの課金項目は細かく分かれているぶん、どこが伸びているかを特定できます。次の順で確認してください。
- 不要なリクエストを減らす。 ボットからのアクセス、意図しない再試行、過剰なポーリングがないか。
- 応答のサイズを見直す。 必要以上のデータを返していないか。画像の寸法・形式・キャッシュの設定は適切か。
- キャッシュを効かせる。 同じ結果を毎回計算していないか。
- DBクエリを見直す。 1画面で大量の往復が発生していないか。
- ログと監視の量を確認する。 出しすぎていないか。
これらで解消できる問題と、実行基盤を変えなければ解決しない問題は別です。ボトルネックが特定の機能に集中しているなら、その部分だけを切り出すハイブリッド構成も現実的な選択肢になります。一気に全部を寄せる必要はありません。
移行を判断するとき、何を記録に残すか?
料金の確認日、通貨、地域、割引、利用量の仮定、社内の運用時間を残します。
判断の根拠が残っていないと、半年後に同じ検討をやり直すことになります。次の項目を意思決定の記録として残してください。
- 各単価をいつ・どの公式ページで確認したか(単価は変わります)
- 通貨と税の扱い。為替を何で換算したか
- 対象リージョン。リージョンによって単価が変わります
- 利用量の仮定。通常時とピーク時を分けて書いたか
- 社内で発生する運用時間の見積もり
- 移行にかかる一時費用と、移行後の継続費を分けて書いたか
実測していない削減率や、確認できない移行実績を判断材料にしないでください。 「◯%削減できる」という数字は、自社の実トラフィックで再計算しない限り根拠になりません。
深夜の障害に誰が対応するか、AWSの請求を読める人が社内にいるか、移行中もサービスを止められないのか。この3つに迷いなく答えられるかどうかが、現実の分岐点です。
工数と費用を見積もる
移行調査、構成のすり合わせ、修正、性能・復旧テスト、切替を工数へ含め、削減見込みとは分けて比較します。
移行の検討でよくある取りこぼしが、移行そのものの費用です。継続費が下がっても、下がる前に一時費用がかかります。回収にかかる期間まで含めて比べてください。
当社の作業単価は 1時間11,000円(税込) です。要件定義・契約後のすり合わせ・開発・テスト・バッファの時間を積み上げて見積もります。バッファは未確定事項ごとに理由を示し、クラウド・API等の実費と保守契約は別に確認します。初回相談・認識合わせの無料モック・お見積もりは無料です。見積もりの進め方と相談シートで整理できます。
すでに動いているシステムの作り替えを含む段階なら、システムリプレース・移行で、止めずに作り変える進め方をご案内しています。試作や社内ツールを実業務へ載せる段階でつまずいているなら、PoCから本番化の支援もあわせてご覧ください。
構成そのものの設計はNext.js・Supabase・Vercelで業務システムを作る、AWSへ全面移行する前にVercel内で解決できないかを確認する選択肢はVercelのDockerfile対応で整理しています。
よくある質問
Q. アクセスが増えたらAWSへ移るべきですか?
件数だけでは決まりません。処理内容、転送量、データベース、社内の運用体制、移行費用を含めて比較します。多くの場合、まず請求の内訳を見て、どの項目が伸びているかを特定するほうが先です。ボトルネックが一部の機能に集中しているなら、その部分だけ切り出す構成も検討できます。
Q. 待機中の費用はかかりませんか?
課金項目を分けて確認してください。VercelのActive CPUはI/O待機中に課金が止まりますが、Provisioned Memory(割り当てメモリ)はインスタンスの生存期間中ずっと課金され、呼び出し回数も別項目です(2026年9月23日時点の公式料金説明)。I/O待機時のCPU課金停止を、全費用ゼロと扱わないでください。
Q. VercelとAWSを両方使うのは非効率ですか?
必ずしもそうではありません。フロントの配信はVercel、重い処理や特定のデータ要件がある部分だけ別基盤、というハイブリッドは現実的な選択肢です。VercelのCDN・デプロイ基盤自体が主にAWSを利用していることを踏まえると、二者択一で考える必然性はありません。ただし請求先と監視の窓口が増えるため、運用の手間も比較に含めてください。
自社の状況を整理して相談する
まず、利用量、CPU・待機・メモリ、転送、DB、運用担当を書き出してください。この記事に合う検討シートとAI相談用プロンプトで、未確認の項目を残したまま整理できます。シートを完成させる前でも、お気軽にご相談いただけます。
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